CROSS TALK
又吉直樹 鈴木修司

春の大人を愉しむ
モノガタリ

私たち東急プラザ渋谷が理想とする
大人のお一人として、
又吉直樹さんを掲げております。
そんな又吉さんをアンバサダーに迎えた
『∞色眼鏡』では、
第1回目の
ゲストとして、日本全国の銘品を
中心にセレクトするBEAMS JAPANの
クリエイティブディレクター、
鈴木修司さんをお迎えして、
大人のための愛用品について、
そして「理想の大人」について、
お話を伺ってきました。

BEAMS JAPAN/
クリエイティブディレクター

鈴木修司

1976年生まれ。三重県松阪市出身、鎌倉市在住。1998年にビームス入社。ショップスタッフを経て、“fennica”のMD(マーチャンダイザー)、 “B:MING by BEAMS”のバイヤーを担当、現在は“BEAMS JAPAN”のクリエイティブディレクターに従事する。「ビームス ジャパン 銘品のススメ」著者。

又吉直樹×鈴木修司

又吉直樹

1980年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属のお笑いコンビ「ピース」として活動中。 2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第 153回芥川賞を受賞。同作は累計発行部数 300万部以上のベストセラー。2017年には初の恋愛小説となる『劇場』を発表。最新刊に、初めての新聞連載作『人間』、他の著書に『東京百景』『第 2図書係補佐』など。 YouTubeチャンネル【渦】、オフィシャルコミュニティ【月と散文】も話題。

仕事をともにする相棒品

春。それまでの物事が終わりを告げ、新たな生活が始まる季節でもありますよね。部署や役職、あるいは環境など、これまでとは異なる活動をスタートされている方も多いかと思います。不安と期待が入り混ざる混沌とした日々の中で、欠かせないのが愛用品の存在ではないでしょうか? そこで、又吉さんと鈴木さんが、どのような愛用品と共に過ごしているのか、尋ねてみたいと思います。

── 目の前に、とても気になるものばかりが並んでいて、東急プラザ渋谷でも今すぐ展開したいようなものが多そうで、ちょっとワクワクしてしまいます(笑)。早速ですが、それぞれお持ちいただいた愛用品についてご紹介ください。

又吉さん:物語やエッセイを書いたり、主に家で仕事をするときに使っているもののなかで、「なくてはならないもの」「重宝するもの」といったアイテムを持ってきました。

鈴木さん:僕も、仕事で使用しているものを中心にセレクトしました。職業柄、日本各地を駆け回り、その地方ならではの伝統的な仕事や名産品を見つけたり、企画したりすることが多いので、その中で出会ったものを中心にセレクトしました。

又吉直樹×鈴木修司
又吉直樹×鈴木修司
又吉直樹×鈴木修司

又吉さんなりの仕事の流儀とそれを成し遂げるための愛用品

── まず又吉さんから、今日お持ちいただいたアイテムを1点ずつ紹介してください。

又吉さん:まず(紙の)『広辞苑』と『電子辞書』ですが、文章を書くときに、目の前にノートパソコンがあって、その右にメモ用のノートを置き、その奥に電子辞書を置いて、左手の方に広辞苑があってという配置で、仕事をすることが多いです。

── (紙の)広辞苑と電子辞書。どちらも、言葉を調べるという意味では、同じ役割のアイテムかと思うのですが、どのように使い分けているのでしょうか?

又吉さん:例えば、物語を書くときは、まず設定を考えて、その設定が思いついたら、落ちも決めずに書き始めます。そうすると途中で問題が立ち上がってくるので、それについて考えて、自分がどう思うか、あるいは、どういう状況に展開していこうか考えるのですが、その中に言葉の問題もあって。大人やけど、わかっているようでわかってない言葉っていっぱいあるじゃないですか。それを、まずはクイックなので電子辞書で調べるんですが、この電子辞書は広辞苑や明鏡国語辞典などが入ってるので、複合的に使えるんです。ひとつの言葉について、広辞苑ではこう、明鏡ではこうと同時に調べられるので、いろいろな角度からその言葉へのアプローチができます。

── なるほど。では(紙の)広辞苑は、どのように使われているのですか?

又吉さん:この広辞苑は第二版のものです。今の広辞苑の方が載っている言葉の数は多いんですけど、昔のものは、言葉によっては、めっちゃ詳しく書かれていたりするので、電子辞書で調べてもイマイチ理解できへんかったり、迷ったりしたとき、この第二版の広辞苑を開きます。また、電子辞書で見るのと紙で見るのとでは、頭に入ってくる感じが違ったりしますからね。ただ、調べた言葉の隣の言葉が気になってなかなか仕事が進まなくなることも多いです(笑)。また、もう何も書くことが浮かばなくなって困ったときに、適当に開いてなんとなく指を差して、その指差したところの言葉をきっかけに強引に書き進めることもあります。そんな使い方は、普通あまりしないと思いますが(笑)。

鈴木さん:これは希少なものですか?

又吉さん:第二版は結構あります(笑)。僕が使っているのは、20年くらい前に古本屋で買ったものなんですが、これは補訂版で、僕が生まれたくらいに発行されたものです。

又吉直樹×鈴木修司

── 言葉について漠然と捉えて生活していることが多いので、すごく興味深いお話とセレクトですね。では、次にタンブラーを紹介ください。

又吉さん:この『タンブラー』は、最初知り合いの誕生日か何かでプレゼントしたものなんですが、人にあげたけど自分で持ってないのが気になっていたので、自分用にも買いました。月っぽい色で、これで飲んでいると幸せなんですよ。

鈴木さん:SUSgalleryという新潟の燕市のメーカーのものですね。

又吉さん:水滴がつかないですし、軽いですし、氷も溶けにくくて、かなり使い勝手が良いですね。家でお酒を飲むときはもちろん、水でもなんでもこれで飲んでいます。

鈴木さん:それこそ又吉さんの手で使ったことで、経年変化でさらに良い味が出ていますよね。

── 水滴がつかないというのは、仕事をされるとき、とても重宝しそうですね。

又吉さん:本やノートを置いているので、テーブルが濡れていると不都合ですからね。コースターも好きでたくさん買うんですけど、中でも、このタンブラーがすごく助かります。

── お酒を飲まれながら仕事をされたりするのですか?

又吉さん:細かい作業はできないですけど、発想だけを出すときは飲みながらやったりもします。あとはエッセイを90%くらい書いて、あと2行で締めるというか、終わったも同然だなってときに飲んだりもします。体力的に落ちてきていて、もうちょっとやけど、しんどいなってタイミングで1杯目を飲むと、体力がちょっと復活して、落ちていた集中力が一瞬グッとあがるというか。ただ3杯くらい飲むと細かい仕事ができなくなるので、そのあたりは失敗しないように(笑)。

── ラジカセなどは、どのような場面で使うのでしょうか?

又吉さん:『音楽を聴くための色々な道具』を持ってきたのですが、音楽は、朝起きて、まだ何も考えられないときに聴くことが多いです。ラジカセは小さいボリュームでも、まあまあデカい音で鳴るので気合いは入りますね。Bluetoothのスピーカーは後輩からもらったものなのですが、ホテルや出先で聴く用です。あと、ほぼ毎日散歩をするんですが、そのときにも音楽を聴きますね。

又吉直樹×鈴木修司
又吉直樹×鈴木修司
又吉直樹×鈴木修司

鈴木さんの審美眼にかなった伝統品を自分なりにカスタムした愛用品

── それでは鈴木さんがお持ちくださった愛用品を紹介ください。

鈴木さん:まずは、今日も身に付けているのですが、映画『男はつらいよ』の公開時に、BEAMS JAPANで作った『ループウィラー製のお守り入れ』です。

── お守り入れですか。面白いですね。

鈴木さん:地方をまわるときにはまず、その土地の神様に「仕事中に事故がないように、成功しますように、よろしくお願いします」と挨拶に行くのですが、そこで時にはお守りを買うこともあります。お守りって普通にそれぞれデザインが格好良いものが多くて。若い方にも、もう少し神社に行ってもらいたいなという思いもあって、格好良いお守り入れがあれば、その中に入れるお守りが欲しくなって神社に行ってくれるかなと。僕自身、何でも形から入りたいタイプなので、皆さんが神社にいくきっかけになればと思って作ったものです。

又吉さん:お守りって首から下げられるようにはなってないんですよね。紐を解いてもギリギリ頭をくぐるかどうかのものが多いですからね。

── まさに、何かをスタートさせるこの季節にはぴったりの提案でもありますね。ちなみに鈴木さんは、今日はどのようなお守りを入れているのですか?

鈴木さん:寅さんモチーフなので、まずは帝釈天のお守りを入れていて、あと僕が戦国時代を大好きなこともあって、織田信長の先祖がもともと神官だった福井県の劔神社のものと、大阪城の中にある豊国神社、つまり豊臣秀吉に由来のあるお守りをつけています。

── お守り自体のセレクトもまさに鈴木さん好みになっているのですね。では、続いてお椀を紹介ください。

鈴木さん:これは『漆器のお椀』なのですが、「皆さんもっと漆のお碗を使ってください」という、BEAMS JAPANからの提案でもあります。陶磁器やガラス、鉄器など色々な素材の食器がありますが、漆器はどうやら最後に辿り着くというものというか、扱いにくいイメージを持たれている方が多いですよね。食洗機に入れちゃダメとか洗ったらすぐに水分を拭き取らないといけないとか。ただ、もともと日本人の生活は、木器、漆器から始まっています。もっと言えば、紀元前の遺跡からも発掘されるくらい伝統的な技法です。人間が最も加工がしやすかった素材が木であったのと、木では水に濡れたりするとすぐに腐ってしまうので、それをコーティングするために用いられていた。人間が必要に応じて生み出した技法なので、古くから愛用されているんだと思います。

── こちらの漆器のお椀は、どの産地のものなのでしょうか?

鈴木さん:眼鏡で有名な福井県の鯖江で作っているものです。それを、もともと木目が持っている模様を見せたく、漆の黒の色をなるべくおさえてもらい、かつ底に僕のイニシャルを入れています。昔の漆器は屋号が入っていたのですが、流石にそれだと和風すぎるなと思い、イニシャルを入れることでカスタムしたものです。これが食卓の一角にあると格が上がるというか、そんな気分にさせられる器です。

又吉さん:どういう器に入れるかというのは料理の一環ですよね。ちょっとずれてるかもしれませんが、実家に帰る度に母がコーヒーを入れてくれるのですが、ヴェルディ川崎のマグカップで出してくるんですよ。母からしたら僕はサッカー少年のままなんでしょうが、コーヒーを飲んでる気がせえへんというか、懐かしさしか感じないです(笑)。それはそれでいいんですけどね。

又吉直樹×鈴木修司

── 漆器がとても良いものだということはわかるのですが、なぜ漆器を特に押されているのでしょうか?

鈴木さん:やはり漆器を作れる職人さんが減ってきているというのが大きいです。このままだと普通に食卓に並ぶことが難しくなるかもしれなくて、少しでも伝統をつなげることに意識が向いている人には使ってほしいと思っています。こうやってカスタムして自分なりに楽しむことで、生活に取り入れやすくなればと思い、イニシャルを入れるイベントなども過去にはしました。

── カスタムするというのはBEAMS JAPANが得意とするところですよね。

鈴木さん:そうですね。僕もカスタムが大好きなので、今日持ってきた『熊の木彫りのループタイ』も自分でカスタムしたものです。

又吉さん:これめちゃくちゃ格好良いですね。

鈴木さん:熊の木彫りが今キテるのですが、ご存知ですか? ファッション関係や編集者のあいだでめちゃくちゃ流行っていて、古いものだと値段が高騰しているものもあります。BEAMS JAPANでは5年くらい前から目をつけていて、北海道の企画展を何度かやらせてもらっています。

── こちらの熊の木彫りもアンティークのものですか?

鈴木さん:これは古いものではなく、北海道は八雲町の職人さんが彫ったものです。それに自分でヌメ革のチョーカーをつけてカスタムしたものになります。

又吉さん:彫り方が格好良いですよね。

鈴木さん:面彫りと言って、北海道・八雲町の柴崎重行さんという著名な作家さんが得意とした彫り方ですね。

又吉さん:ちょっとスター・ウォーズとかに出てきそうな感じしません? 上手いのか下手なのか、このとぼけた熊の顔の感じがいいですよね。

鈴木さん:格好良いですよね。かなり使っているので角がとれて丸みを帯びてきているんですが、そうやって経年変化で味が出たり、自分なりにカスタムしたり、というのが好きなんですよね。

又吉さん:芯のところがブレなければ、多少遊び心を持ってカスタムしても、ちゃんとそのもの自体の良さは損なわれないですよね。特に伝統工芸品には、歴史や時間に耐えてきた魅力もあるからブレないというか。

又吉直樹×鈴木修司

「何かを買ったり所有することは自分自身の意思の表明」(又吉さん)

── ここまでは愛用品について伺いましたが、おふたりに改めて、理想の大人について尋ねてみたいと思います。

鈴木さん:一言で言うと、期待以上に返してくれる人ですかね。又吉さんのように、色々なことで多くの人に影響を与えたり、誰かの役に立てるような大人が理想です。

又吉さん:昔は、面白い人が一番格好良いなと思っていました。それはお笑いだけじゃなく、自分の知らないことを知っているとか、自分では思いつかないようなことを思いつく人だとか。でも今は、鈴木さんもそうですが、色々なことを面白がれるのが大人だと感じます。人それぞれの良いところを見つけて、輝かせてくれる人が格好良いなと思いますね。

鈴木さん:僕はまだまだなのですが、そういう大人は最高ですよね。

又吉さん:「おもろい/おもろない」を判別していくんじゃなくて、それぞれの魅力を最大限に引き出していくのが、格好良いんじゃないかなって。何を食べても「まずい」って言っている人より、どれを食べても「美味しい、なぜならこうだから」と言える人のほうが良いなって思います。

── 又吉さんは、今日お持ちいただいたアイテムもそうですが、ご自身のスタイルがしっかりと確立されていますよね。そういった物事の選び方は、いつ頃から身についたものでしょうか?

又吉さん:たぶん子供の頃からですね。僕の小さかった頃って、まだ確かな流行みたいなものが世の中にちゃんとあって、みんなそれを買っていたんですけど、それをもれなく買えるような家でもなかったので。みんなが持っているものを自分が持っていないときに、自分は代わりに何を持つのかというのは子供の頃から考えてきたとは思います。

── 具体的にはどういうことですか?

又吉さん:小学3年の頃、姉のお下がりの白シャツを着ていってたんですけど、みんなと比べて自分のものはちょっと黄ばんでいたんですよ。それをどう捉えるかなんですけど、僕は、学校に被っていく黄色い帽子が綺麗なままだとバランスが悪いから、土で汚してシャツとのバランスをとる、みたいなことをやっていたのを覚えています。

鈴木さん:それを小3でですか? 又吉さんやはり只者じゃないですね!

又吉さん:自分が一番イケてるんだって思いで、姉ちゃんの黄ばんだシャツをいかに格好良いものにするかという。周りの友達には一切わかってもらえなかったですけどね(笑)。

鈴木さん:素晴らしい。子供ってどうしても羨ましがるじゃないですか。ネガティブに捉えてしまうところをポジティブに受け止めてカスタムしたんですね。

又吉さん:その頃から、自分の持ち物として何かを買うときには、何かしら自分の考えみたいなものが入ってないとダメというか。所有することは自分自身の意思の表明だと思っています。

── 歳を重ねて、物との付き合い方で変わった点はありますか?

又吉さん:若い頃は古本や古着もそうだけど、安いものしか買えなかったですからね。もっと欲しいものがあっても買えるものには限界がありました。でも今は、ちゃんと自分が良いと思ったものを、それに見合った適正な価格で買うことができるようになったと思います。『良いもの』にはちゃんとお金を出せるようになったのかなって。それが大人の愉しさでもあります。東急プラザ渋谷も、まさにそういった『良いもの』を扱っているところだと思うので、最後にアンバサダーとしてオススメさせていただき締めさせていただきます。

ー 了 ー